「じゃぁ、隆弘に決定な。バツゲーム。」

そういわれたのは、五時限目に仲間内でサボった屋上でやったポーカーが原因だ。

「マジ、ですか・・・・。」

ポーカーでぼろ負けしてしまった俺、春日隆弘は究極の二択に迫られていた。



恋愛ゲーム



「良、本気でやらなきゃならないのか?」

今、俺がいるのは教室沿いの廊下。

窓からある女性を覗いている。

もちろん見つからないようにだ。

「お前が選んだんだろ?しっかりやれよ、この色男!」

良と言う男、ポーカーで勝ち、俺に無理難題なバツゲームの二択を迫った男は、

俺の背中をバシバシと二階叩きこう言った。

二択とは、つまりバツゲームでどちらかをやるか選択権が与えられたわけだ。

一つは一ヶ月間教室の受け持つ掃除区域を全部一人でやりぬくこと。

二つ目は教室内一、無口で何を考えているか分からない女、鳴瀬夕に告白をすること。

ごめんなさい。

俺は二つ目を選びました。



教室で彼女は一人、読書をしている。

どうやら、彼女は生徒会に入っていて、生徒会の仕事が特進科にあわせて

1時間遅らせて始まるから、教室で時間つぶしをしているらしい。

話し掛けたことは一度だけあるが、なんとも無口な女だった。

ただ、大して美人でもないし、喋りもしないのに、存在感だけは印象的だった。

あれで生徒会の仕事が勤まっているのだろうか。

俺はあまり好きじゃない。



そんなことを考えていたら、隣にいる良が急かし始めた。

「隆弘、さっさといけよ。

 俺たちここで見守ってやっているからさ。」

そう言うと、他の三人も頷いて俺のほうを見た。

「本当に告白するだけでいいんだよな。

 向こうがもしOKとかしたら、絶対お前ら出てきて説明しろよ。」

そう俺が不機嫌そうに言うと、彼らは頷いてさっさと行って来いと促した。



俺はつばを飲み込み教室の扉に手をかける。

考えてみれば、俺から女に告白するなんて初めてのことだ。

いつも向こうから告白されて適当に付き合って、適当に別れる。

適当と言うのは、いい加減ではなくて適度に程よく、と言う意味。

まぁ、たまにはこんな経験もいいかと思い、ガラリとドアを開けた。

彼女はこちらを振り向き、興味なさそうにすぐに文庫本に目を戻した。

俺の存在は文庫本以下ですか・・・・。

普通の女なら、ここで俺にどうしたのかぐらい聞いて話し始めるだろうに。

やり難い。



「鳴瀬、さん。今ちょっといい?」

俺は彼女に声をかける。

思った以上に緊張するな、これは。

彼女は振り向き口を開いた。

「何か、ようかな?」

嫌いだ。

この、なんともいえない女性にしては低い声。

余裕な感じのする口調。

眼鏡の中から覗く深い瞳。

さっさと終わらせて、解放されたい。



「鳴瀬さん、今彼氏いないんだったらさ。俺と、付き合ってくれない?」

いつもよりも少し早口で、思った以上に冷酷な声が出た。

そうすると彼女は、俺から目を離し考え始めた。

ように見える。

数秒考えた後、彼女は俺を見てこう言った。

「そうだね、いいよ。付き合おうか。

 ちょうど廊下で聞き耳立てている人たちも祝福してくれるみたいだし。」

俺は驚き、彼女を見た後ガラリと聞こえたドアの方に目をやった。

「あはははは、気付いてたんだ、鳴瀬さん。」

良たちが笑いながら入ってきた。

俺はまだ、口を聞ける状態ではない。

「君たちあんな大きな声で話していたら、誰だってわかるよ。」

彼女はニヤリと笑い、良の方を見た。

「あ、じゃぁ・・・・・、バツゲームだったと言うことで。俺もう帰るな。」

俺はようやく復活し、自分の席に置きっぱなしにしてあった鞄をとり、

扉へ向かおうとする。



「ちょっと待って。」

彼女の声が其れを阻み、俺は彼女の方を向いた。

一刻もここから速く立ち去りたいのに。

「なに?最低とでも言うの?」

俺は嘲りなが振り返り言った。

彼女に対する嘲りか、はたまた自分自身に対する嘲りか。

「君と私は付き合うんだろう?」

彼女は口元に笑みを浮かべながら俺を見た。



「其れは・・・、只のゲームだろ?本気なわけないじゃないか!」

俺は目を開き、半分ヒステリックに叫ぶと彼女は更に笑みを深めた。

嫌だ、ここにいたくない。

「子供じゃないんだから自分の発言の責任ぐらいはとろうね。」

彼女はそう言って、良のほうを向き、そうだろう?と聞いていた。

俺が睨んだときには、良は予想外の展開だと言わんばかりに嬉しそうに頷いていた。

「お友達は物分りがよいようだね。

 まぁ、明日からよろしく頼むよ。春日井君、だったっけ?」

彼女は嬉しそうに微笑んでずれた眼鏡を右手の中指で押し上げた。

誰が無口だって?

冗談じゃない。

「・・・っ春日だ!春日隆弘!」

もう、どうにでもなれ。

知るか。

鞄を握り締め、再び扉へ向かう。

「隆弘君、明日はおいしいお弁当が食べたいな。」

そんなことを言われても振り向かずに教室を出た。

振り向いて堪るか。

廊下を歩いているときに、良の下品な笑い声が遠くに聞こえた。

俺はなんだか消えてしまいたい気分になり、足を速めて家路を急いだ。




そのときの俺には、生徒会室でこんな会話がされることなんか予想だにしていなかった。



「夕先輩、こんにちは。」

「やあ、六花。こんにちは。」

「今日の仕事なんですけど、次の企画の予算を・・・・。

 夕先輩、何かいい事あったんですか?」

「ふふっ、分かるかな。

 新しいおもちゃを手にしてね。どう遊ぼうかなって・・・。」

「はぁ、夕先輩興味ないことは見向きもしないくせに、

 一度気に入るとこれでもかってぐらいに弄り倒しますもんね。

 程々にしておいてくださいよ?とばっちりは御免ですからね。」

「そうかな。でも今回のは本当にハマリそうかな?」




恋愛ゲーム。

勝負はまだまだこれから?





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     2005/01/03





微妙な部分を一部反転。