―いやはや、参った。―



俺の家は結構な金持ちで。

子供のころから何不自由なく暮らしてきた。

小中高は都内の有名私立の学校。

大学にいたっては全国で上から数えて5本の指に入るところ。

コネなんか使わずに実力で楽勝だった。

当然のごとくお家の会社に就職。

ちなみに俺、次男坊です。

会社は兄貴がついでくれるから、俺は自由を満喫中。

そんな気楽な人生送ってる俺にも。

くるんですよ。こういうの。

お見合いですよ、お見合い。

高級レストランでやる。アレ。

しかも相手が高校のときの同級生って・・・・。

ありがちすぎて笑えない。




「光さん。こちら、狩野月菜さん。お父様のご友人の狩野さん。

 貴方も会ったことあるでしょう。その娘さんよ。」

・・・・・よりにもよって。

「よろしくお願いします。」

何その挨拶。しおらし過ぎてかえって嘘くさいんだよ。

「いえ、こちらこそよろしくお願いします。月菜さん。」

満面の笑顔で行ってやった。作り笑顔って言うのはこうやるんだよ。

お前下手すぎ。

紹介が終わったら定番の意味のない雑談。

とっとと終わらせたい。

「月菜さんのご趣味は―。」

確か・・・・。

「読書と映画鑑賞です。」

おいおい。お前は自他共に認めるゲーマーじゃなかったのか?

「読書は何を・・・・。」

俺は彼女に微笑む。

「・・・・太宰を。」

おおう。まともな答え。

来る前に言い聞かせられたとか?

もう少し掘ってやるか。

「僕も太宰は大好きです。月菜さんはどの話が一番好きですか?」

狩野の顔が青ざめてゆく。

ちょっといい気分。

「・・・どれも素敵で1番なんて決められませんわ。」

・・・そう来るか。

「光さんのご趣味は?」

狩野の隣のおばさんが慌てたように言う。

「そうですね。僕は、休みの日にカメラをいじったり。

 でも最近は休みが少なくって全然触らしてもらってないんですよ。

 後は暇なときに月菜さんと同じですが読書などを。」

おばさんはホッとしたような表情。

狩野は・・・・固まってる。

よし。

いい感じ。

「ところで月菜さん。僕はよく花を買ったりするのですが、

 月菜さんはどんな花が好きですか?」

嘘じゃない。

よく、姪っ子の由紀ちゃんに買って行ったりする。

「・・・・・・・花。ですか。」

狩野は青ざめているというか白い。

「っひっひまわり!とかですね・・・。」

最初浮かべていたあの安っぽい笑顔は微塵もない。

俺は笑みを増していった。

「そうですか素敵な花ですよね。向日葵の花言葉ってなんでしたっけ?」

広がる沈黙。

最初に言葉を放ったのは狩野の隣に座るおばさんだった。

「あ、後は若い二人に任せて私たちは退散しましょうか。」

俺の隣に座る女性も賛同していそいそと席を立ってレストランを出て行く。

ようやく終わった。



「「はぁ。」」

重なるため息。

「た、滝沢!」

狩野は恨めしそうに俺を見る。

「久しぶりだな狩野。お前こういう席に来るなら

 もう少し猫のかぶり方を勉強してから来いよ。」

悔しそうな顔が俺を見る。

「お前私が本なんか読まないこと知っているだろ。

 何であんな恥かかせようとするんだ。」

あらまぁ真っ赤になって・・・。

「気まずい雰囲気になったらすぐ終わるだろ。

 それよりこれからどうする?とりあえずここ出ようか。」

席を立って歩き出すと高いヒールに慣れないのかよろけながらついてくる。

これはまず、靴屋に直行かな。



狩野を靴屋に連れて行って靴を選ばれた。

動きやすいやつを。

さっきのヒールの靴。結構俺好みだったけど狩野が履くとちょっとな・・・。

「滝沢、お金・・・・。」

「いいって。と言うかこういう所では男が払うものなの。

 狩野が払うと俺が恥かくでしょう。」

と言うかこいつって男と買い物とか行った事ないのか?

「でも・・・。」

何か言いたげだけど無視。

「次どこ行こうか。月菜さんの趣味の映画でも見る?

 それともこのままの格好でゲームセンターでも行く?」

2人とも一張羅だ。

流石に之ではいけないだろう。

「・・・映画。」

悔しそうにつぶやいたのを聞いて歩き出した。



「映画何見る?」

ラブロマンス系とかはありえないだろうし。

「アクションの新作がなんか面白そうだったから其れみたい!」

ああ、あの宣伝に莫大な金かけてるやつね。

「ん、そうしようか。」

映画館に行ってチケットを2枚買ってはいる。

まぁまぁの映画だった。

そういえば。昔も。

5人くらいでアクション映画見に行ったっけ。

そのとき狩野は、もちろんスカートなんていうものは履いていなくって。

もう七年か・・・・。

ずいぶん年をとったような気がする。

映画を見ている途中隣を見たら、あのころと変わらない真剣な顔。

ああ、そうだったな。

狩野は、いつも真剣だった。

いつもなんでも軽くこなしてしまう俺には、そんな彼女が眩しくって。

少し、彼女を避けた時期もあったっけ。

思えばアレは彼女を意識していたからかもしれない。

そういう風に。

まぁ。昔のことだけど。

「行こうか・・・。」

テロップが流れ始めたころ、そう言って彼女を見た。

「面白かったな。」

嬉しそうに笑う彼女を見て、少しだけ。ほんの少しだけ胸がざわついた。

冗談。

俺はあのころとは違う。



「少し、歩こうか。」

狩野に上着をかぶせて歩き出さした。

夏と言っても7時過ぎになると風吹いて少し肌寒い。

そんな中、目的地もなく歩き出した。

「滝沢、今日はありがとうな。そろそろ帰るよ。」

そんな俺を不思議に思ったのか狩野がそう言い出した。

駅の場所を聞いてくる彼女にもう少し一緒にいたくて切り出した。

一緒にいたいのは狩野だからじゃなくって、昔の友人だから。

少し、懐かしくなっただけだ。

そう、言い聞かせて。

「今日ってさ。18日だよな。」

うなずく彼女に続ける。

「ここから歩いていけるところで花火が上がるんだ。」

馬鹿は高いところと祭りが好き。

「本当!!?何時からだ?」

思ったとおり食いついてきた。

「8時からだったと思う。」

そう言うと急がないと、と俺の腕を引っ張って走り出した。

場所も知らないだろうに。

場所を指示しながら俺たちは少し離れた花火の良く見える場所に進んだ。

つかまれた腕の熱さを幻想だと思いながら。



着いた時にはもう花火が始まっていた。

其処にはあまり人がいなくって数人の見物客が空に上がる花火を見ていた。

「狩野。見合いの話なんだけどさ。俺、あの見合い断れないんだよな。

 もし嫌だったら、そっちから・・・。」

少し、卑怯な言い方だったかもしれない。

でも、本当の話だ。

社運とやらが掛かっているらしい。

「滝沢。悪いけど、こっちも断れないんだ。

 ・・・・相手が滝沢なら、断る理由も無いし。」

花火が厳かな音色を響かせながら空に散ってゆく。

「まぁ、俺なら本性知ってるから結婚してもゲーム続けられるしな。」

彼女の言ったことの意味が、どう受け止めていいのかわからなくって茶化した。

っつーか、無理。考えられない。

「違う。そうじゃなくって。」

横を向いたら、彼女のあの頃と変わらないまっすぐな視線。

「狩野・・・?」

これ以上はやばいだろ。

「私は、ずっと、高校のときからずっと滝沢のことが好きだったんだ!」

まるで喧嘩をふっかけるように告白する彼女。

「おい、何とかいえよ。滝沢!」


なんて言ったらいいんだよ。


っつーか何で口元が緩むんだ?



いやはや、参った。




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     2004/08/27